以前、公共交通機関の現状と不採算路線に対する策をご紹介しました。今回はその対応策それぞれの状況を私なりに深掘りします。
(1)増収を図る
これができれば一番言うことはありません。人口が少ない地方都市でも様々な施策を講じることで乗客の増加につながった事例は多数あります。乗客が増えればそのまま増収につながりますが、2020年のコロナ禍で落ち込んだ乗客数はなかなか元には戻っていないといいます。今年春時点の話ですので今はわかりませんが、和歌山バスさん、わかやま電鉄さんではまだコロナ前の8割程度までしか回復していないそうです(大手鉄道会社では9割程度あるいはそれ以上まで回復しているところが多い、といわれていますが…)。
ここ2~3年、物価上昇や待遇改善などを背景に各地の交通事業者で運賃引き上げの動きがみられます。「しょっちゅう運賃があがっているイメージがある」という声もありますが、実は消費税の導入や税率の引き上げによる運賃改定を余儀なくされたケースが多く、それを除くと交通事業者の抜本的な運賃改定はここ20~30年の間に1~2回程度しかおこなわれていないケースがほとんど。実は鉄道やバスの実質の運賃水準はいうほど上がっていないんですね。消費税関係を除くと、運賃を引き上げるにも相当な手間と時間が必要といいます。また利用者のことを考えると運賃はあまり上げたくない、という考えもあり、難しい点かもしれません。
(2)コスト削減を進める
これは既にいろいろ取り組まれており、もう何年も前から「乾いたぞうきんをさらに絞っている」状態と言われています。
特に路線バスについては30年ほど前から子会社化による賃金体系の見直しをおこない人件費の抑制、または定年を迎えた運転士の再雇用などの動きが都市・地方問わず進められていました。そもそもバス運転士は収入が全職種平均よりも低く、ゆえに不人気職種といわれ、そこにきてここ数年は定年を迎えた退職者が増加し、常に人材不足状態に陥っている状態です。
多くのバス事業者にとって最も大きな支出は人件費だそうです。ここをカットするとどうなるかは自明ですね。鉄道事業者でも地域を問わず人員不足が深刻になり始めています。人員不足の解消のひとつは待遇改善ですがその原資すらままならないのが実情といわれています。
そこにきて、燃料代・電気代・資材費等が高騰していますので、コスト削減を進めても経費上昇分を吸収しきれない状態となっているところも少なくないようです。
コスト削減策のなかには、ガラガラの車両で走らせるなら、鉄道なら車両を減らす、バスなら小型の車両を使う、などの方法があるのではないか、という話がよく出てきます。
ただ、鉄道・バスともラッシュ時間帯などに耐えうる輸送力が必要になります。鉄道であればラッシュ時は2両で昼間は1両、バスであればラッシュ時は大型車で昼間は小型車、という運用をおこなうにはそれ専用の車両が別途必要になります。そうなると、車両を導入する費用(仕様にもよりますが鉄道車両なら1両あたり1.5~3億円前後、バス車両なら1両あたり2000~3000万円前後とされます)、車両の整備・点検をする費用、車両の増解結をおこなう場所と手間などが増え、逆に費用対効果が悪化し、現実的ではないケースが多いそうです。
(3)足らずは補助金等で支える
赤字となっている鉄道・バス路線を補助金で支える仕組みは古くからあります。ただ、国などの補助金制度には一定の要件があります。国の要件を外れる場合に県や市町村が単独で補助金を支出するケースもありますが、それにも限度があり、際限なく補助金を支出するわけにもいきません。
(4)行政のコミバスに転換する
これも各地で見られる事例です。一般的なコミュニティバスはバス運行事業者への委託金とバスの運賃収入で運営されています。運賃は低廉な価格に抑えられているケースが多く、人口希薄地域にいくほど収支率(事業費に占める運賃収入額の割合)が低くなるのが一般的。結果として多額の費用を計上している自治体も多くなっています。
結果、路線バスの赤字額の穴埋めに補助金を支出するほうがいいのか、行政がほぼ丸抱えする形でコミュニティバスを運行したらいいのかについては実は難しい判断となります。
例えば、和歌山市の場合、2024年度一般会計当初予算では、市内を走る路線バスの運行支援にかかる予算(上記の(3)にあたります)は約2013万円、コミュニティバスにあたる「地域バス」運行にかかる予算は約2479万円(上記の(4)にあたります)が計上されています。額だけでみると、地域バスへの支出額のほうが多くなっています。
※ 路線バスの運行支援は市内4路線に対しておこなわれていますが、4路線の赤字額の全額をまかなうものではありません。
※ 和歌山市の地域バス運行に際しては運行経費の一部は、運行地域ごとに構成されている運行協議会が運賃や協賛金・寄附金等の収入から負担することが求められており、和歌山市が負担する約2479万円に上乗せする形で運行経費全体がまかなわれています。
先日、ある政令指定都市で高齢者向けに公共交通の運賃を割り引く「敬老パス」の見直しを図るための市民向け説明会が開催されたところ、高齢者からは総じて反対の意見が出た一方、ごく少数出席していた現役世代が賛成意見を述べたところ、高齢者から猛烈なヤジが出て話しづらかったという問題があったそうです。
高齢者にとっては敬老パスがあることで外出がしやすくなるというのは一理ありますが(免許返納を求められている立場からしても一理あると思えます)、高齢パスの原資を支払っているのは市民税を支払っている方、その多くは現役世代といえます。敬老パスの費用を削減することで市全体の予算に若干の余裕ができるほか、市民税が原資という点から考えても、高齢者が声高に見直しを拒否するのはいかがなものか、という意見にも一理あるといえます。
一方、別の地方都市では、高齢者の外出を支援するために公共交通への支援を進めた結果、介護保険料の支出削減の効果が認められたとして、公共交通への支援を継続することにしたという事例もあるそうです。このような丁寧な議論が図られれば、また、成果の「見える化」が進めば、住民の意見集約もより容易になるかもしれませんね。
(5)思い切って廃止するか路線を再編する
一番のカンフル剤はこれになるのかもしれません。とはいえ、廃止は住民の移動手段を失うことになるため、当該地域に居住する移動困難状態にある方はたちまち立ち行かなくなってしまいます。路線を再編することで費用対効果を改善することはできますが、それでも赤字が継続する場合は運営が困難になります。
・・・というように、公共交通機関は「諦めない」といいつつも、人口密度がどんどん低くなっている地域で事業運営を進めるのは真綿で首を絞められるかのように厳しさが増しているのも事実。そこに住む住民のみなさんの意見を反映しつつ、できるだけ多くの方に便益が届けられるように、交通事業者、行政、市民それぞれが果たす役割を明確にし、取り組みを進めていく必要があると考えられます。