最近「高齢者の移動手段をどうにかしたい」というご相談を受ける機会が増えてきたように感じます。
この記事を書いている日も、ネットニュースでは80代後半の方がアクセルとブレーキを踏み間違えて事故を起こされたという記事が出ていました。その方は病気の家族の通院手段として自家用車がなければ困る、という事情がおありだったとのこと。なかなか難しい話です。
和歌山に限らず、少し都会を離れれば公共交通にアクセスできないという住民の方は少なくありません。鉄道の駅やバス停から500m以上離れている地域を「公共交通空白地域」を呼ぶことがあります。県都の和歌山市でも公共交通空白地域は点在しています。
ちなみに和歌山県内で公共交通空白地域が最も少ないのは岩出市ではないかと思います。紀の川市も公共交通の人口カバー率が驚異の約98%。両市に共通しているのは市の巡回バスが非常にきめ細かく路線を張り巡らせている点です(1日3本とか4本という本数は…という課題はとりあえず別として)。
さて、高齢者の方の移動手段をどう確保するか。もちろんご自宅の近くに鉄道やバスがあるならそれを使えます。タクシーを使える方もいますし、介護保険を使える方であれば介護タクシーもあります。問題は「タクシーを頻繁に利用することはできないけれども移動しなければならない方」をどうするか、というところです。「駅やバス停まで行けばなんとかなるけどそこまでが微妙に遠い」という方もそうかもしれません。
タクシー事業者の側からみると「ぜひタクシーをご利用ください」という話なのですが、タクシーを頻繁に利用する、となるとそれなりの経済的余裕が求められます。また和歌山県内でもタクシーの減車が相次いでおり「なかなかタクシーが捕まらない」問題も出始めています(その前に運転代行がまったく捕まらないという話もありますね)。タクシーを利用したくても経済的・物理的に困難な層の方が一定数いらっしゃるのではないかと思うのです。
そんな課題を抱えている住民のみなさんが「これはなんとかしなければ」と立ち上がろうにも、タクシー事業は認可制。しかも普通2種免許も必要になることから、NPO等が容易にタクシー事業を立ち上げられるというわけではないのです。
ではどうするか。概ね「福祉有償運送」か「ボランティア輸送」の2つにひとつです。ただ「福祉有償運送」は、自治体単位で関係団体等も加わる協議会を立ち上げて、福祉有償運送をおこなってもいいかどうかを協議する必要があります。和歌山県内ではこちらの地域で福祉有償運送が認められています(和歌山県長寿社会課ウェブサイト)。ただ、地方のNPO関係者から聞いた話では「過疎のためタクシー会社が撤退したということで、福祉有償運送ができないか検討が行われたが、関係機関の協議がまとまらず、協議会が立ち上がらなかった」という地域もあるらしく、一筋縄ではいかない話なのかもしれません。
「福祉有償運送」が認められた場合、運転手は指定された研修を受けることなどの要件があります。そして運賃はそのエリアのタクシー運賃のおおむね半額、ということになっています。経済的余裕が少ない利用者にとってはそれでもありがたい話なのですが、実は運営する側にとっては運営はギリギリのことが多いようです。確かにタクシー事業者も経営が厳しいといいますから、その半額の運賃で動く有償運送はさらに厳しいということは容易に想像ができます。実際に和歌山県内で福祉有償運送を担う団体のなかには既に撤退を検討しているところもあるやに聞きます。
じゃぁボランティア輸送はどうなのか。あくまでボランティアなので、燃料代実費相当のみ受け取ることができるという仕組みです。団体の運営経費どうこう以前の問題です。本当にボランティア精神でないと動けません。また保険も運転者が加入している任意保険、もしくは社会福祉協議会などが受け付けている移送サービスに関する保険の範囲内というような形となり、運転手の負担が結構大きい感じがします。和歌山市内でもボランティア輸送を担っている団体は複数ありますが、もちろん採算度外視です。
ここにきて、各地で路線バスやタクシー乗務員はおろか、ローカル鉄道の乗務員までもが不足してきているというニュースが増えてきています。10年20年前に、県内のバス事業者の担当者さんが「バスは斜陽産業なので、好き好んで入ってくれる人が減っているんですよ」とおっしゃっていましたが、まさにその状態になっています。多くは低賃金と過剰な乗客対応が重荷になっているといわれています。後者はともかく、前者を事業者の手で改善しようとするとすなわち運賃アップが求められますので、利用者にとってはちょっと辛い側面もあります。行政の支援を、といっても限りがあります。
結果、公共交通機関を維持しようと思えば誰かが負担を背負わなければならない。公共交通機関を放棄するとなれば、事業者や運転手に負担がかかる福祉有償運送やボランティア輸送を拡充させるしかない。こういうジレンマに陥っている、といえるのではないかと思うのです。
今年10月から法改正で、地域のローカル鉄道のあり方を検討する際に国が介入する形で、予断を持たず検討する仕組みが創設されました。特に鉄道を廃止するとなると地元からの反対が多いのが常ですが、とはいえ100円稼ぐのに数千円かかるような赤字路線を存続する社会的意義は不明確ですし、道路があれば自由に路線を設定できるバスのほうが効率的なケースもあります。とはいえ、現在はバス乗務員が不足しているので、バスへの転換もできない八方ふさがり状態になる地域も増えてくるかもしれません。高度な政治的決断が求められるのではないかと思われます。
でも、鉄路が残った、バスが残った、でも便は1日3本4本、だと便利・・・でしょうか。
タクシーを安価に使えるような制度が仮にできたとしても、車両や運転士が減ってくるとニーズに応えられる・・・でしょうか。
ボランティア輸送を積極的に導入して、安全性はどう・・・でしょうか。
住民の方の移動をどう保障するか。本当に難しい課題が地域には突き付けられています。