
NPO法人制度の根拠法となっている「特定非営利活動促進法(NPO法)」。1998年12月に施行されてから、活動分野の2度にわたる拡大(当初11分野→17分野→20分野)、活動計算書の導入や役員の代表権制限を可能とする改正(2012年施行)、貸借対照表の公告開始(2018年施行)などすべてのNPO法人に関わる大きなものから、民法や刑法など他の法律改正に合わせた小さなものまで、結構な頻度で改正されています。
もともと、法律の附則にて「運用状況をみながら随時見直しをおこなうこと」とされており、概ね3年に1回程度は何らかの見直しがなされてきました。ところが、現在のところはその動きはありません。2018年を最後に、NPO法単独の改正はなかったのではないかと記憶しています。
一時期、ある報道機関が休眠状態のNPO法人の存在を問題視したことから、「解散をもっとしやすくしてはどうか」「認証取り消しをもっと迅速にできないか」などという意見も聞こえたことがあります。しかし今のところ、与野党の超党派の国会議員で組織する「NPO議員連盟」でも法改正に関する議論は表向き出ていないと聞きます。
先に挙げた意見のうち、NPO法人の解散をしやすくすればどうかという話は、NPO法人の解散時に官報掲載などで数万円の費用がかかることを理由に解散しないという選択をしている休眠状態の法人が少なくない、ということが理由のひとつと考えられます。当初はNPO法人解散時には3回の官報公告が求められたので10万円以上かかるといわれていました。現在は1回の官報公告でよくなっていますが、やはり3万円超かかるとされています。一方で、法人格を抹消するという責任の高いことをするのだから、それくらいの費用は個々で負担するべきという考え方もあります。また、NPO法人だけ解散のハードルを低くすると、他の法人格とのギャップが大きくなるのでは、という考え方も。
認証取り消しの迅速化については、数年にわたって事業実績がまったくない法人に対して、解散の「勧告」のようなことが一部の所轄庁で行われているらしい、ということも要因の一つと考えられます。事業実績がまったくない法人であっても事業報告や役員変更(再任を含む)などの義務はありますので、「活動していないのに様々な事務が必要」という状態は団体・所轄庁双方ととも避けたいという心情が働くのも無理はありません(もっとも、事業実績がない法人については、総会や役員改選が適切に行われているかどうかすら怪しいのですが…)。所轄庁にとっては、事業報告書未提出の団体に対する催促や地裁への過料事件通知など実務がかなり負担になっているという話も聞いたことがあります(事業報告書の提出がない場合は地方裁判所への過料事件通知を実施し上限20万円の過料事件となることがあるほか、3年にわたって提出がない場合は認証取り消しとなります)。
とはいえ、わたしが把握している限りですが、これら休眠法人の件を除けば、NPO法人の制度をめぐっては現状では特段の問題点が指摘されている状況にはありません。そんななか、先日お話しさせていただいた有識者の方とと意見の一致をみたのは「解散時の残余財産の帰属先」を見直せないかということ。
NPO法人が解散時に持つ剰余金は(1)他のNPO法人、(2)社会福祉法人、(3)公益社団・公益財団法人、(4)学校法人、(5)更生保護法人、(6)国または地方公共団体、のいずれかに譲渡することとされています。社団・財団法人制度が抜本的に見直された際に(3)が公益社団・財団法人に制限されましたが、それ以外は法律施行時から変わっていません。そういえば一度、解散を検討しているという団体から、「私立大学への譲渡はOKで国公立大学への譲渡はNGなのは不公平では…」という話を聞いたことがあります。
確かにここ最近、様々な法人制度ができているので、ここは改正してもいいかもしれませんね。既存の6つになぞらえて、いろんな法人制度から抜粋すると、国立大学法人、大学共同利用機関法人、独立行政法人、地方独立行政法人(公立大学法人含む)…あたりでしょうか(Wikipediaで日本の法人制度一覧を眺めたのですが、そんな法人格あるんだ、と驚いたこと多々)。ちなみに、これらの多くが寄附金税制が適用される「特定公益増進法人」なので、既存の6つに「特定公益増進法人に指定されている法人」を加えたら万事解決しそうです。ただ、いかんせん「NPO法人が解散するときの残余財産の帰属先」の話ゆえ、それほどポジティブな話ではないんですよね。
一方、株式会社や一般社団法人など一部の法人格では、一定期間にわたって登記がなされていない法人については法務局が通知をおこない、それでもなお登記がなされない場合に法務局の職権で法人格を抹消することができる制度が運用されています。「それをNPO法人にも適用できないか」という声も一部にはあるのですが(わたしもそれが一案ではないかと考えていました)、前述の通りの「認証取り消し」の制度があるので、それで十分ではないかとされているとか。
もっとも、NPO法制定の過程ではここまで法人数が爆発的に増加するとは思われていなかった向きもあり、休眠法人対策は想定外だったのかもしれません。
NPO法人は行政機関の監督権限をできるだけ緩くし、NPO法人自らの活動や情報公開により、地域社会がその信頼性を判断するというそれまでになかった画期的な法人制度です。NPO法人制度ができて四半世紀が経過し、NPO法人自らが、その趣旨を再認識し、必要な取り組みを進める時期なのかなと思う今日この頃です。
